犬や猫に噛まれたら~動物咬傷について~

動物咬傷(どうぶつこうしょう)は日常診療でもしばしば遭遇する外傷です。

特殊な菌に感染していることもありますので注意が必要です。

 

犬や、猫の咬傷の特徴

動物が小型であっても作られる傷は奥深くまで損傷が及んでいることがあります。
傷の大きさに関わらず、症状が強く出現し、治療が長引く事があります。

気を付けるべき感染症

①パスツレラ症
パスツレラ属菌(主な原因;Pasteurella multocida)による感染症で犬や猫の口腔内、上気道、消化器に常在していますが、動物は保菌していても症状はありません。
パスツレラ症の特徴としては受傷早期(数時間から2日程度)に受傷部位に発赤、腫れ、疼痛が出現し、膿性の浸出液を認める傷となります。

蜂窩織炎(ほうかしきえん)や骨髄炎(こつずいえん)をおこすこともあります。また、免疫機能が低下している人では、重症化して死亡することもあります。

早急に適切な抗生剤の治療が必要になります。

②カプノサイトファーガ感染症
イヌ・ネコの口腔内に常在している3種の細菌、カプノサイトファーガ・カニモルサス(C. canimorsus) 、カプノサイトファーガ・カニス(C. canis)及びカプノサイトファーガ・サイノデグミ(C. cynodegmi)を原因とする感染症です。国内のイヌの74~82%、ネコの57~64%がC. canimorsusを保菌しているというデータがあります。

潜伏期間は、1~14日とされています(多くは1~5日)。受傷した部位にあまり炎症をおこさないまま数日の潜伏期の後に重篤な症状が現れる事があります。

発熱、倦怠感、腹痛、吐き気、頭痛などを前駆症状として、重症化した例が主に報告されています。
重症化した例では敗血症を示すことが最も多いですが、さらに播種性血管内凝固症候群(DIC)、敗血症性ショックや多臓器不全に進行して死に至ることがあります。敗血症以外では、髄膜炎を起こすこともあります。患者の臨床所見等に応じて早期に抗菌薬等による治療を開始することが重要となります。

③破傷風
破傷風は、破傷風菌により発生し、かかった場合に亡くなる割合が非常に高い病気です。

主に傷口に菌が入り込んで感染を起こし毒素を通して、さまざまな神経に作用します。口が開き難い、顎が疲れるといった症状に始まり、歩行や排尿・排便の 障害などを経て、最後には全身の筋肉が固くなって体を弓のように反り返らせたり、息ができなくなったりし、亡くなることもあります。

受傷時の破傷風発症予防には、創傷の清浄化と消毒に加え、抗破傷風人免疫グロブリン(TIG)と破傷風トキソイドが用いられます。予防接種による基礎免疫が完了していれば、交通事故など予期せぬ外傷を受けた場合でも、直ちに破傷風トキソイド追加接種を行えば、抗体価の上昇による発症予防が期待できます。動物による咬傷は傷が汚染されており、傷も深い場合があるので最後の摂取から5年以上経過していれば追加接種を行う必要があります。

〈沈降破傷風トキソイド〉 通常、1回の接種では、破傷風の発病を阻止できる抗毒素レベルまで抗体は上がりません。2回目の接種後数日の間にこのレベルを越え約1年位その免疫状態が続きます。6箇月以上の間隔をおいて(12箇月から18箇月までの間に)追加免疫(3回目接種)を行うと抗体はさらに高くなり、少なくとも4〜5年間は免疫状態が持続します。
初回及び追加免疫の3回接種(基礎免疫の完了)を行っている場合、破傷風発症阻止効果は、90%以上と考えられています。

④狂犬病
人も動物も発症するとほぼ100%死亡しますが、人では感染後(感染動物に咬まれた後)にワクチンを連続して接種することにより発症を防ぐことができます。

狂犬病にかかった動物(罹患動物。アジアでは主にイヌ)に咬まれた部位から、唾液に含まれるウイルスが侵入します。
通常、ヒトからヒトに感染することはなく、感染した患者から感染が拡大することはありません。現在、日本国内の場合、犬などを含めて狂犬病は発生していないので日本国内で犬に噛まれたとしても感染の心配はありません。しかし狂犬病は、日本の周辺国を含む世界のほとんどの地域で依然として発生しており、日本は常に侵入の脅威に晒されていることから、万一の侵入に備えた対策が重要となっています。平成18年には、フィリピンに滞在中に狂犬病の犬に咬まれ、感染し、ワクチン接種しなかったため、日本帰国後に狂犬病を発症し死亡する事例がありました。

 

近年のペットブームに伴い飼い猫や犬に噛まれ、クリニックを受診される方が多くいらっしゃいます。受診が遅れ、感染が広がると、治療が難しく重症化し、経過も長くなります。重症化を未然に防ぐにはできるだけはやくに最寄りの医療機関を受診することと、適切な初期治療を受けることが重要になります。

ペットや動物に噛まれた場合は、自己判断で病院にかからず市販薬を使用するのではなく、直ちに傷口を石鹸と水でよく洗い流し、できるだけ早期に医療機関を受診しましょう。

 

参考文献

厚生労働省HPhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou18/capnocytophaga.html
狂犬病について https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/
東京都福祉保健局https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/douso/kansen/kan_list/pasutsu.html
破傷風トキソイド添付文書https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00006072.pdf

魚住総合クリニック 皮膚科